阿川弘之「雲の墓標」
阿川弘之「雲の墓標」
読んだっけかな?と思いつつお買い上げ
数十頁のところで、フッと記憶の引き出しがガタピシ言ったので、本棚を見たらありました。
裏にはブックオフの100円シール。
ああもう読んだのねと思っても、僅かに開いた引き出しは「もうこれ以上開くもんか!」とばかり動きもしない。
結局最後まで読んで、読後感に憶えがあった。
京大の国文科4人が海軍予備学生14期として戦争にかり出され、死んでいく
吉野と言う人物の日記を中心に物語が進んでいくが、藤倉という級友の日記も間に織り込まれる
吉野は「時代」をそのまま受け止めて、戦争に対しても平均的日本人が持っていたであろうと思われる感情を抱いて、昭和二十年七月九日に遺書を残して終わる。25才。
藤倉は「時代」をややエキセントリックにとらえ、敗戦論をぶち、「この戦争を是認出来ず」、抜け出したいと思いながら、訓練中に死ぬ。三月一日。25才。
「・・・離陸してすぐ、頭を上げすぎ、失速して、あっという間に左翼から墜ちた。かけつけたときには、彼の顔に操縦桿がめり込み、眼玉はふたつとも唇の横までぶらさがって、後頭部は割れて白く、血もろくに出さずに死んでいた」(吉野の日記)
作中数少ない生々しい描写である
この藤倉を主人公にして描けば良かったのにと思う
吉野を主人公にしたおかげで、この小説が成立したんだろう
かつて誰だったかから、ノンポリ三人組(他は開高健、吉行淳之介だったかな?)と言われただけあって、安心して、落ち着いて、死へ向かう日記を読むことが出来る
つくづくオレは今幸せだなと思いながら、死を覚悟した若者の日記を読むことが出来る
死に向かって、死ぬために飛行訓練をし、死ぬために最後の同期生の離陸を見送り、短い遺書を残して逝った若者の日記を、安心して読むことが出来る訳は、藤倉ではなく吉野がメインだからなのだろうか
軍隊を「脱走」して生きることを真剣に考えた藤倉をメインに据えたら、とても安堵して読む訳にはいかないだろう
阿川弘之はそんな作家ではないという先入観も、面白く本を読むには欠かせない要素である
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