吉村昭「破獄」
吉村昭「破獄」
戦時中、4回も脱獄した男の話
「佐久間清太郎」という名も作者が付けたそうだが、吉村作品らしく丹念に調べ上げ、読みやすくまとめ上げられている
文庫で350ページ、会話の少ない文章なので読み応え有り
戦中、戦後の刑務所の置かれた状況、刑務所職員の立場、考え方、また特に食糧事情についての記述は面白い。
戦時中の困難な食糧事情、国民は満足に食えなくなっている中、服役囚には米6合分は何としても与えようと刑務所官吏が努力していた。これにはちょっと驚きです。刑務所の食事のが悪いと思うのが普通でしょうね。
大きな理由に、服役囚の反抗を未然に防ごうというのがあったのだけど、軍部圧力も相当あっただろうに。
また、戦況の悪化、敗戦で明確になるのが、それまで服役囚のが低かった、一般国民と服役囚の死亡率の逆転。原因は蛋白源の極度の不足、炭水化物だけでは生きていけないのね。
戦後、GHQ支配下で佐久間が札幌刑務所から府中刑務所に移管される。府中刑務所所長鈴江のとった佐久間脱獄防止策が興味深い
佐久間の過去4回の脱獄が、いずれも刑務所側の処遇に対する怒りからなされていると判断。甘過ぎとも言える懐柔策を弄し、脱獄王佐久間をして、脱獄は「もう疲れた」と言わしめる
淡々と抑えた文章。佐久間の4回の脱獄歴を読んだ後、多分もう脱獄は止めるんだろうと読みながら解るんだけれど、微妙なワクワク感がわき上がってきて、読後感も上々
戦争の悲劇を、刑務所を軸につづったマジメな一品。
お勧めかな。
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